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退職防止の策としてのワーク・エンゲイジメント向上

シリーズ第6回 「役割別の評価基準の策定」

人材がなかなか定着しない――この課題を抱える中小企業の経営者の方は多いのではないでしょうか。
その背景には、「やっていること」と「もらっている給与」が噛み合っていない、という現場社員の不満があります。
経験やスキルのある新入社員や中途入社社員に対し、旧来の評価制度で給与を決定している場合に起こりやすい問題です。

職能給と職務給の違い

まず押さえておきたいのは、評価と賃金の基準となる制度の種類です。
会社の人事制度には、主に「職能給制度」と「職務給制度」の2種類があります。
従来の日本の会社に多かったのは職能給制度です。これは「何ができるか」を評価軸とする制度で、
実際にやっているかどうかよりも、「できる可能性」や「知識・スキルの保有」が重視されます。
(多くの場合、「やれる能力はあるとされている人が、全くそれを発揮していない」という現実がありました・・・)
結果として、社歴や年齢がものを言い、いわゆる年功序列型の賃金体系に自然とつながっていました。

一方、近年注目されているのが職務給制度です。これは「何をやっているか」「どんな役割を担っているか」
に着目し、実際の業務内容や責任の重さに応じて賃金を決定する制度です。
職務給は「役割給」とも呼ばれ、職務ごとの価値に報いる考え方がベースになっています。

中小企業には「職務給」がフィットしやすい

特に中小企業では、中途採用で即戦力を求めるケースが多く、職能よりも実際に「何を任されているか」が
賃金決定にふさわしい指標になります。
たとえば、入社してまだ半年の社員が、難易度の高いプロジェクトを一任されている場合でも、
旧来の職能給制度では社歴の浅さゆえに賃金は低く抑えられてしまいます。
その結果、「この会社は、何をやっても正当に評価されない」と感じ、モチベーションが下がり、
早期退職へとつながってしまうのです。

「役割」に見合う評価と報酬を

そこで求められるのが、「役割」と「成果」を基にした新しい評価制度と、それに連動した賃金制度の構築です。
重要なのは、どの社員がどんな役割を担い、どんなアウトプットを出しているかを可視化し、その価値に報いる仕組み
をつくることです。

具体的には、役割別に等級や基準を設け、それに応じた評価項目を設計。
成果の質や貢献度に応じて賃金へ反映させる制度を運用していく必要があります。
また、「評価される成果」というものを具体的に役割ごとに明示することが重要です。

注意点:急激な変更はトラブルのもと

ただし、これまで職能給制度で運用してきた会社が、急に職務給制度へ移行しようとすると、問題も生じます。
たとえば、社歴が長く、現在は高い給与をもらっている社員を職務給で評価した場合、結果的に等級が下がり、
賃金が下がってしまうことがあります。これは、本人にとってはなかなか受け入れがたい事態です。
このような状況が多発すれば、現場に大きな不満が噴出し、場合によっては「不利益変更だ!」と声を上げる社員も
出て、社内の混乱を招きかねません。

ですので、移行には一定の「猶予期間」を設けるのが賢明です。3年程度の移行期間を設けて、評価は職務基準で行うが、
賃金については当面据え置き、差額分を「特別補填」するなどして、徐々に制度をなじませていくことがポイントです。

最後に:評価制度には経営者の「覚悟」が必要

評価制度とは、「誰に、なぜその給与を支払っているのか」を社員に説明できるようにするためのものです。
もしも、経営者自身がその説明に自信が持てなければ、社員から「適当に給与を決めている」と受け取られても仕方ありません。
だからこそ、会社の将来を見据えて「やっていること」に報いる制度を整える。
それが、良い人材を定着させ、退職を防ぐための土台となるのです。

評価制度改革には時間も手間もかかりますが、社員の働きがいを高めるために、今こそ取り組むべきタイミングです。

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