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シリーズ第3回 「インセンティブ制度のメリット・デメリット」
近年、多くの企業で「成果に応じて報酬を支払うインセンティブ制度」が導入されています。
営業職に対する歩合給、目標達成時の報奨金、業績連動型賞与などが代表例です。
一見すると、「頑張った人が多く報われる仕組み」であり、公平で合理的な制度に思えます。
しかし、この制度、本当に効果があるのか慎重に考える必要があると感じています。
そもそも、インセンティブ制度とは「一定の成果を上げた社員に対して、通常賃金とは別に金銭や地位、
特典などを与えることで行動を促進する制度」です。
確かに短期的には効果があります。目標が明確になり、社員が努力しやすくなり、
業績向上に直結するケースも少なくありません。
しかし、ここで一つ根本的な問いがあります。
会社の仕事は、本当に一人で完結しているのでしょうか。
例えば営業社員が契約を取ったとします。しかし、その成果の裏側には、商品を開発した部署、受注処理を行う事務職、
納品を担当する現場社員、アフターサービスを行うスタッフなど、多くの人の協力があります。
にもかかわらず、「契約を取った営業社員だけ」にインセンティブが支払われるとしたらどうでしょう。
(野球でいえば、さよならホームランを打った選手だけが評価されるということと同じではないですか?)
表面的には成果主義に見えても、組織全体で見れば必ずしも公平とは言えません。
この制度には明確なメリットがあります。
第一に、社員の行動が分かりやすくなることです。目標が明確であれば、努力の方向性も定まりやすくなります。
第二に、短期間で成果を求める業種では即効性があります。特に営業現場では一定の効果を生みやすいでしょう。
しかしデメリットも大きいのです。(強いていえば、欠陥です)
数字だけを追いかけるあまり、本来大切にすべき顧客との信頼関係が軽視されることがあります。
また、自分の利益を優先し、社員同士が協力しなくなるケースもあります。
さらに、後輩育成や業務改善のような「すぐに数字にならない価値ある仕事」が軽視される危険があります。
ここで考えたいのが、日本人の働き方との相性です。
欧米型のインセンティブ制度は、個人の役割が明確で契約社会の文化と相性がよい側面があります。
一方、日本企業は長年にわたり、チームワーク、助け合い、相互補完によって成長してきました。
もちろん時代は変化しています。しかし、日本企業の強みまで捨て去り、過度な個人競争を持ち込むことが
本当に正しいのでしょうか。
さらに本質的な問題があります。
社員のモチベーションは、本当に「お金」でしか上がらないのでしょうか。
もし社員が、報奨金や昇進という“ご褒美”がなければ頑張れないとしたら、その組織は健全なのでしょうか。
私はそうは思いません。
本当に強い会社とは、「報酬があるから頑張る会社」ではありません。
自分の仕事に意味を感じ、社会に役立っている実感を持ち、自分自身の成長を感じながら働ける会社です。
最近よく使われる言葉に Work Engagement(ワーク・エンゲイジメント)があります。
これは単なる満足度ではありません。
「この仕事に誇りを持てる」「会社に貢献している実感がある」「成長できている」
こうした内側から湧き出るエネルギーです。
最終的に目指すべきものは、物理的・金銭的な“馬の前のニンジン”で社員を動かすことではないでしょう。
人事制度の本質は、人をコントロールすることではありません。
社員一人ひとりの働きがいに火をつけ、自ら成長しようと思える環境をつくることです。
これからの日本企業に本当に必要なのは、インセンティブ制度をどう設計するかではなく、
「社員が、自ら燃える組織をどうつくるか」ではないでしょうか。
その視点こそ、これからの人事制度設計、そして会社経営に最も必要な考え方だと思います。