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シリーズ第2回 「職能給から職務給への流れ」
最近、「日本企業も職能給から職務給へ移行すべきだ」という議論をよく耳にするようになりました。
政府の成長戦略や大企業の制度改革でも「ジョブ型雇用」という言葉が頻繁に使われています。
しかし私は、この議論を見ていると少し違和感を覚えます。
本当に大事なのは「職能給か職務給か」という制度の名称ではありません。
大切なのは、自社が社員に何を期待し、その期待に対してどのように評価し、
どのように賃金を支払うかという根本設計です。
今回は、その視点から考えてみたいと思います。
まず、従来(昭和~平成)の日本企業で多く採用されてきたのが「職能給」です。
職能給とは、簡単に言えば、「その社員が持っている能力」に対して賃金を決める
制度です。
経験を積み、知識を増やし、仕事ができるようになれば賃金が上がっていく仕組みです。
この制度のメリットは長期雇用との相性が良いことです。
社員は安心して経験を積み、会社も長い時間をかけて人材育成ができます。
一方でデメリットもあります。
年齢や勤続年数によって給与が上がりやすくなり、「現在どれだけ会社に貢献しているか」
が見えにくくなることです。
これに対して近年注目されているのが「職務給」です。
職務給とは、「どの仕事を担当しているか」によって賃金を決める制度です。
仕事の内容を明確に定義し、その仕事の価値によって給与を決定します。
この制度は成果責任が明確で、役割と報酬の関係が分かりやすいというメリットがあります。
しかし実際には大きな課題があります。
それは、「そもそも職務を明確に定義することが非常に難しい」という点です。
特に中小企業では、一人が複数の仕事を兼任していることも多く、「あなたの職務はこれです」と
線引きすること自体が現実に合わないケースが少なくありません。
結論をいえば、中小企業においては単純に職能給から職務給へ移行することが正解だとは考えていません。
むしろ重要なのは、「役割」を明確にすることです。
つまり、職能給と職務給の中間にある考え方です。
社員に対して、「何ができるか」だけを見るのでもなく、「どの職務を担当しているか」だけを見るのでもない。
その社員に期待されている「役割」を明確に定義し、その役割をどれだけ果たしたかを評価して賃金に反映させる。
私はこの考え方の方が、多くの中小企業には適していると思います。
例えば営業部門を考えてください。
会社で「新規開拓」が重要だとします。
では、営業担当者全員が同じ新規開拓をするのでしょうか。
答えは違います。
一般社員であれば、「現在の市場の中で新しい顧客を増やすこと」が役割かもしれません。
一方で営業管理職であれば、「これまで取引のなかった異業種に新しい市場を作ること」が
求められるかもしれません。
このように、同じ新規開拓という業務でも、期待される役割の次元が違うのです。
ここを曖昧にしたまま評価制度を作るから、多くの会社で評価制度が形骸化します。
そして本当に重要なのは、会社全体で「この役職、この部署、この等級に期待する役割とは何か」を
明確に定義することです。
そうすれば、人事制度全体に一本の筋が通ります。
採用するときは、「この役割を果たせる人材か」という視点になります。
教育するときは、「この役割を果たせるよう育成する」ことになります。
配属も、「どの役割を担わせるか」で決まります。
昇進も、「より高い役割を任せられるか」で判断できます。
つまり、採用・教育・配置・評価・昇進・賃金制度、すべてが一気通貫でつながるのです。
人事制度とは、単に給与を決める仕組みではなく、会社が目指す方向を定め、
社員に期待する役割を明確にし、その実現に向けて人を育てる仕組みです。
最近は職務給が流行しているようです。しかし制度には流行があります。
経営に必要なのは流行ではありません。
自社に必要な人材像を定義し、その役割を明確にし、それを正しく評価し報いることです。
それこそが、本当に機能する人事評価制度と賃金制度なのではないでしょうか。