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【トラブルを未然に防ぐ労務管理】

シリーズ第1回 「その業務委託契約は大丈夫?」

近年、人手不足や人件費の高騰を背景に、「業務委託契約」を活用する企業が増えています。
特に中小企業では、「社会保険料や労働保険料の負担を抑えたい」「残業代などの管理を簡素化したい」
といった理由から、雇用契約ではなく業務委託契約を選択するケースも少なくありません。

しかし、その契約は本当に業務委託契約として成立しているでしょうか。
もし契約書には「業務委託契約」と書かれていても、実態が雇用契約と判断されれば、
会社は大きな法的リスクを抱えることになります。

まず、業務委託契約と雇用契約の違いをおさらいします。
業務委託契約とは、一定の仕事や成果物の完成を目的とする契約です。
報酬は「仕事の成果」に対して支払われます。

一方、雇用契約では、労働者が会社の指揮命令のもとで「労務を提供」し、
その対価として賃金を受け取ります。

つまり、成果に対する報酬なのか、労務提供に対する賃金なのかが大きな違いです。

さらに業務委託契約として成立するためには、
①仕事の進め方を自ら決定できること
②勤務時間や勤務場所について会社から細かな指示を受けないこと
③代替要員を自ら手配できること
 など、実態として独立した事業者であることが求められます。

契約書の名称だけでは判断されません。
裁判や労働基準監督署は、「実際にどのような働き方をしていたか」を重視します。

ここで注意したいのが、「雇用に伴うコストを削減したい」という理由だけで
業務委託契約を利用することです。

確かに雇用すれば、給与だけでなく社会保険料や労働保険料の負担が発生します。
年次有給休暇や残業代の支払い義務もあります。

しかし、それらを避けることだけを目的として実態に合わない業務委託契約を締結すれば、
そのリスクは決して小さくありません。
例えば、後になって「実態は雇用契約だった」と判断された場合、
①未払い残業代の請求
②社会保険の遡及加入
③労働保険料の追徴

 など、多額の負担が発生する可能性があります。会社の信用も大きく損なわれるでしょう。

実際のトラブルは、契約当初ではなく、何らかのきっかけで表面化することが少なくありません。

代表的なのが、業務中の事故です。
重いけがを負ったとき、「労災保険が使えない」と知った委託先が、「実態は雇用契約だった」と
主張するケースがあります。

また、「これだけ働いているのに委託料が低すぎる」「会社の指示どおり働いているのに個人事業主扱いはおかしい」
といった不満がきっかけとなり、労働者性が争われることもあります。

契約当初は双方納得していても、立場や状況が変われば主張も変わるのです。
だからこそ、「本人が納得しているから大丈夫」という考え方は非常に危険です。

重要なのは、契約書ではなく実態です。
現実には、「業務委託契約」と称しながら、毎日決められた時間に出勤し、会社の指揮命令を受け、
会社の設備を使い、仕事を断ることもできないというケースも見受けられます。

このような働き方では、実質的に雇用契約と判断される可能性が高くなります。

一方、業務委託契約そのものを否定するつもりはありません。
専門性の高い仕事や独立した事業者との取引では、業務委託契約は非常に有効な契約形態です。

問題は、「実態に合っていない契約」を選択してしまうことです。
それは結果として偽装請負や偽装委託と評価され、会社に大きなダメージを与えることになりかねません。

労働保険料や社会保険料は単なるコストではなく、
社員が安心して働き、万一のときに生活を守るための社会的な仕組みであり、会社が果たすべき責任でもあります。

賃金を「経費」とだけ考え、できるだけ負担を避けようとする会社と、人材への「投資」と考える会社では、
数年後、十年後の姿は大きく変わります。

当たり前ですが、人を大切にする会社には人が集まり、人が育ち、会社も成長します。

トラブルを未然に防ぐ労務管理とは、法律の抜け道を探すことではありません。
法律の趣旨を正しく理解し、人を大切にする経営を実践することこそが、
会社を守る最も確実な方法ではないでしょうか。

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