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労働基準法を正しく理解して守る

シリーズ第7回 「残業の黙認と指示の境界線とは」

「残業は命じていない」「本人が勝手にやった」

時間外労働をめぐるトラブルの現場で、会社側から非常によく聞く言葉です。
確かに、労働基準法上、残業(時間外労働)は会社の指示に基づいて行われるものであり、
指示もないのに従業員が自主的に行った時間については、原則として賃金支払い義務は生じません。

しかし実務では、この「指示があったのか、なかったのか」の判断が極めてあいまいになりがちです。
そして、このあいまいさこそが、未払残業代トラブルの大きな原因になっています。

1.残業は「指示」があって初めて成立する

時間外労働は、会社が業務上の必要性を判断し、指示または承認のもとで行われる労働です。
そのため、

・上司の明確な指示がない
・事前申請や承認がない

場合には、「本来は残業させてはならない」というのが基本的な考え方です。
会社としては、原則として指示なき残業は認めないという姿勢を明確にする必要があります。

2.現場では「指示かどうか」が問題になる

問題は、現場では必ずしも「残業しなさい」と明確な言葉で指示されるとは限らない点です。

業務指示、納期設定、上司の言動などから、従業員が「残業せざるを得ない」と受け取る状況が生まれることがあります。
この場合、会社が意図していなくても、結果として「指示があった」と判断されることが少なくありません。

3.明確な指示がなくても「指示と同等」とされるケース

判例や実務では、次のようなケースが「黙示の指示(黙認=指示)」と判断されることがあります。

① 業務量と期限(締切)から残業が避けられないケース

例えば、部下に対して
「この企画書を3日以内に仕上げてほしい」
と指示した場合、その業務量が通常業務をこなしながらでは明らかに期日内に終わらない内容であれば、
残業を前提とした指示をしたと判断される可能性があります。
「残業しろとは言っていない」という主張は通りにくく、業務の出し方そのものが黙示の指示とされる典型例です。

残業している状況を知りながら止めないケース

上司が、部下が連日残業していることを把握していながら、

・声をかけない
・是正しない
・業務配分を見直さない

といった対応を続けている場合も、「事実上の黙認」と判断されやすくなります。

事後的に追認するケース

事前の指示や申請はなかったものの、

・後から残業報告書に押印した
・成果物を評価し、叱責しなかった

といった場合も、「結果的に残業を認めた」とされ、指示と同視される可能性があります。

4.会社が取るべき実務対応

こうしたリスクを防ぐためには、

・残業は原則事前申請・事前承認とする
・業務量と期限が適切かを管理職が確認する
・無断残業を見つけたら必ず是正指導を行う

といった運用ルールを形だけでなく実態として守ることが重要です。

特に、「見て見ぬふり」は、最も危険な対応です。
※このことは、管理職の指揮命令権をそもそも放棄していることになり、論外です。

5.まとめ:黙認は“安全策”ではない

残業を黙認することは、従業員への配慮のように見えて、実は会社にとって最もリスクの高い選択です。
※テーマから少し離れますが、長時間労働による健康被害につながる要素の1つでもあります。

「言っていない」ではなく、
「どう受け取られるか」「現実的に可能だったか」
が判断基準になります。

総務・人事部門がない中小企業ほど、

✔ 残業の指示ルールがあいまいになっていないか
✔ 業務の出し方が無理を前提にしていないか

を、一度立ち止まって確認してみてください。

残業の黙認と指示の境界線を理解することは、
未払残業代トラブルを防ぐ最初の一歩になります。

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