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労働基準法を正しく理解し守る

シリーズ第8回「労働時間の記録をめぐる裁判例から学ぶ」

「社員から残業代の請求をされたが、そんなに残業していた記憶はない」
労務相談の現場で、経営者の方から非常によく聞く言葉です。
しかし、裁判や労基署の調査では、「記憶」ではなく「記録」がすべての判断材料になります。

今回は、労働時間の適切な記録方法と、実際の裁判例をもとに、会社が気を付けるべきポイントを整理します。

1.労働時間を記録する適正な方法とは

労働基準法では、使用者に対し労働時間を適正に把握する義務があるとされています。
厚生労働省のガイドラインでも、原則として次のような客観的な方法が求められています。

 ・タイムカード
 ・ICカード、IDカードによる入退室記録
 ・PCのログイン・ログオフ記録
 ・勤怠管理システムによる打刻

 ポイントは、次の2つです。
 👉 本人の申告だけに頼らないこと
 👉 後から改ざんできない仕組みであること

2.労働時間の記録として不適切な例

一方、裁判で問題になりやすいのが次のようなケースです。

 ・毎日「8時~17時」と固定で記載された出勤簿
 ・月末にまとめて記入する自己申告制の勤務表
 ・上司が実態と異なる時間に修正しているタイムカード
 ・「残業は申請制だから、申請がなければ残業していない扱い」

 これらは実際の労働時間を反映していないとして、裁判では証拠能力が低い、
 または否定されることが多くあります。

3.なぜ労働時間を正しく記録することが重要なのか

 労働時間の記録は、単なる事務作業ではありません。

 ・残業代計算の根拠
 ・労基署調査への対応資料
 ・未払い残業代請求訴訟での「最大の防御資料」

 特に裁判で争われることになれば、
「会社が出した記録」と「労働者側が出した記録」を比較し、
会社の記録が客観的に信用できなければ労働者側の主張が採用される傾向があります。

4.裁判例から見る「勝った会社」と「負けた会社」

【会社が負けた例】

ある会社では、タイムカードが存在していましたが、

 ・実際の退勤後も事務作業や報告書作成をしていた
 ・上司が「早く打刻してから続きをやれ」と指示していた

この結果、裁判では
「タイムカードは実態を反映していない」と判断され、
社員が独自に付けていた業務日報やPCログが採用され、多額の未払い残業代支払いを命じられました。

【会社が勝った例】

一方、別の会社では

 ・ICカードによる入退室管理
 ・PCログの保存
 ・残業は原則事前申請、例外時は事後申請を認める運用

 が徹底されていました。
 社員側は「実際はもっと働いていた」と主張しましたが、
 裁判所は会社の記録の方が客観的で信用性が高いと判断し、会社側の主張が認められました。

5.実務上、会社が気を付けるポイント

最後に、実務で特に意識していただきたい点をまとめます。

 ・労働時間は「実態どおり」に記録させる
 ・打刻と実際の業務内容が乖離しない運用をする
 ・「申請がない=残業していない」という考え方は危険(前週のシリーズ第7回目参照)
 ・管理職が部下の勤務状況を把握する
 ・記録を最低3年間(実務上は5年程度)保存する

 労働時間の記録は、従業員を管理するためのものではなく、会社を守るためのものです。
 「うちは小さい会社だから大丈夫」ではなく、
 「小さい会社だからこそ、シンプルで正しい記録」を心がけることが、将来のリスク回避につながります。

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